日本の経済が低迷して10年が過ぎました。この間、橋本政権が行政改革・財政再建を掲げてこけた後、今度は、経済再生が先だと、小淵・森政権が、財政拡大戦略に変更して、またこけて、今度は、小泉政権。さてどうなるんでしょう。まあ、他の総裁候補や前の総理よりは大分ましかと、支持しちゃえ、なんて。その実、最後の手段、構造改革さえすれば、日本が本当に再生するなんて、本気で信じられるほど日本の状況は楽観できない瀕死の状態であることは、気づかないこととして、「たまには痛みもいいんじゃないの」ってなのりかな。これこそ、リスクマネージメントがあまいと言わざるを得ません。それでは、小泉改革が成功するのか、失敗するのか、リスクマネージメントとは、その両方を想定し、二つのシナリオを策定しておくことなのです。
リスクのとりは、経済です。バブル崩壊後、会社が倒産したりリストラされたりで、住宅ローンの返済ができなくなったサラリーマン、バブルの時に立派なビルを建てた後、見込んでいた家賃収入が暴落しビルを失ったオーナー、その他経済変動によって、大きな痛手を被ってしまった人は、数知れません。多分、みんなシナリオを一つしか準備していなかったのでしょう。会社は永遠で、まじめに働いていれば、住宅ローンは返せるな。地価は上がり続け、ビルを持てば、家賃収入でビルの返済のみならず、お小遣いまで出ちゃうな、なんて。給料が下がることも想定して、車も買っちゃおうと思ったけど、住宅ローンのこともあるから、定期預金を少し増やしておこう、家賃収入が減少することも想定して、積立を増やしておこう。景気は循環しているのです。あんなに好景気だった日本が今はデフレスパイラルの真っ只中にいる。あんなに不景気だったアメリカが好景気の絶頂に至り、今また調整局面に入っている。お金なんて持っていてもしょうがないから、どんどん値上がりしている株や土地を買っておこうというのがかの有名な「財テク」だったのではないでしょうか。実は今もバブルなんです。土地・株バブルではなく、現金バブルです。5000万円で5坪しか変えなかったのに、今は25坪も買えちゃう。地価が5分の1に暴落したと見るのが「土地バブルの崩壊」論者、お金の価値が5倍になったと考えるのが「現金バブル」論者、土地バブルの崩壊を嘆いている間に、今度は現金バブルが崩壊する。そうなると、今度は、現金をたくさん持っている人が現金バブル崩壊に巻き込まれる。そのかわりに不動産を持っていた人は、不動産バブル再燃で資産価値が上昇する。その繰り返しです。
バブルの頃、地価が暴落するなんて言ったら、笑われたかもしれない。今、地価が値上がりするなんて言ったらやっぱり笑われるだろう。だけど、どちらのシナリオも確実に想定しておくのがリスクマネージメントです。「地震なんて起こんないよ」から「地震が起きた場合は」へ、そして、「地価はもう上がんないよ」から「地価が値上がりした場合は」へ。現金の価値が暴落すれば、土地もマンションも、家賃もみんな高騰する。昨年サンフランシスコの不動産市況を調査してきましたが、オフィス家賃も、住宅価格も、ここ数年で2倍か3倍に暴騰していました。日本が地価の暴落に苦しめられているまさに同じ時にです。現金も土地もマンションも住宅も株式も国債も、全て資産の一形態なのです。それらの相対的価値バランスは、常に変動しているし、あるいは変動のマグマが蓄積されているのです。全ての資産のバランスを、相対的価値の変動をシミュレートし、ポートフォリオを策定することが、経済変動リスクに対する唯一の手段です。そしてそれぞれの資産は、経済変動以外に価値が変動しない本物を選択しておくことです。
小泉改革は残念ながら、小泉さんや竹中さんが言うような、根本的な手術ではありません。言ってみれば、瀕死の重症患者に、早寝早起き、間食を控えて食事療法を勧めるようなものです。構造改革はもちろん必要です。しかし、外務省の機密費の無駄遣いを減らしても、大蔵官僚がノーパンしゃぶしゃぶにいかなくなっても、銀行が行員の給料を下げ、リストラを進めても、日本経済の瀕死の病状は残念ながら改善されません。なぜなら、先程申し上げましたように、さまざまな資産の相対的価値バランスが大きく崩れてしまったのです。しかし、これも市場メカニズム(政府や企業や個人の戦略ミスも含めて)が是正してくれます。もちろん戦略ミスでなく適切な戦略を選択遂行できればもっと早く再生できるのですが、なかなかそう簡単にはことは運ばないようです。いずれにしても、更なるデフレとハイパーインフレの両方の戦略シナリオを策定することが、経済変動リスクに対応するためのリスクマネージメントとなります。 |