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平成7年1月17日午前5時46分、淡路島北端部を震源地とするマグニチュード7.2の大地震が発生しました。観測史上初めて震度7の激震を記録したこの阪神大震災は、その被害においても、我々の想像をはるかに越えるものであったことは、まだ記憶に新しいところです。特に高速道路・新幹線高架橋などの土木構造物、そしてビル・住宅の別を問わず建築物全体に及ぼした甚大な被害は、一般の方々だけではなく、我々建築を設計し、施工しているものにとっても大きな衝撃を与えました。
老朽化し耐力の低下した構築物、手抜き工事による不良構造物の倒壊はもとより、施工は正確に行われてはいるが、使い勝手上1階に駐車場を最大限にとったため、1階の壁が不足しつぶれてしまった建築物など、その被害状況は1つの原因に還元することは不可能な状況です。
建築を実際に施工している業者・技術者の根本的な技術・知識の欠落も明らかになりました。豪華な石を外装に貼り、高価な化粧を施した立派な建築物がもろくも崩壊している姿を見て、建築に対する建築主の価値観の甘さも、また同時に露呈されたと言わざるを得ません。
ある報告によると、設計図と全く違った溶接方法で完全に倒壊した建物の追跡調査で、その鉄骨業者を調べたところ、予算がないから図面と違ってもかまわないと元請の建設会社から指示があり、また、その建設業者を調査したところ、施主が見積金額を下げないと発注しないと言われたので、しかたなく施主のわからないところで変更をしたと報告しています。ここではだれひとりとして真剣に建築物の価値を考えている人がいなかったことがわかります。
阪神大震災の教訓を生かすためには、倒壊した建物の物理的調査のみならず、その生産過程をも含めた調査がかかせないのではないでしょうか。倒壊した建物の下で、我が子を助けることもできず、その死にゆく姿を目の当たりにした御両親の悲しみを忘れてはならないのではないでしょうか。我々は、これからもさらに強く、使いやすく、美しい資産価値の高い建築を御提供させていただくため、阪神大震災の教訓をお客様と御一緒に考えさせていただきたいと願っております。
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